ドップラー効果

1.波について                                        home
 

  波というと、海の波、特に岸辺にうち寄せる波をすぐに思い出すが、この波は少々複雑である。そこでまず、サッカーでサポーターが作るウェーブを取り上げて、簡単な説明をする。 図2はこれを模式的に示したものであるが、波は1個の物質で構成されるのではなく、物質が数多く集まった物質群の中に表れます。ウェーブも一人では作れないので多数の観客が動員され、並んだ人の群れが波を伝えています。
 さて図1では多くの方がその場で立ち上がったり座ったりを繰り返している。そして、それを時間をずらして行うことで、波の最も高い部分= 山 =が時間と共にどちらかへ移動していくように見える。図2の場合、時間は下へ進行するとして、山(濃い人)は右へ移動しているから右進行波となっている。ただしこれはその波形が移動しているだけで、実際に誰も人は横に移動していない。見かけ上山が移動したように見えるだけである。もちろん唯一移動したものもある。それは個々の運動状態である。波が始まったところ(「 波源 」)から少しずつ時間をずらして立ったり座ったりの運動(振動)をしている人が時間と共に周りに増えていく。そして直線上を伝わる場合は、この振動の先端は等速直線運動となり、平面空間なら等速に同心円、立体空間なら空面で広がる。
 ところでこの波は個々人の振動方向と波の進行方向が垂直に交わっているので「 横波 」と言われまる。横波は一般に物体同士、粒子同士の結合が強い固体中しか伝わらない。ところがこのウェーブ、人と人とは見た目では全く結びついていない。なのに何故横波になったのか。その理由は個々人それぞれが共有する強い意志の力である。全員が時間を順番に均等に遅らせて立ち上がるという強い意志統一をしていたからこそ、このようなきれいな横波ができる。従ってもし意志統一されてない人々によって無理にでも横波を作ろうとするならば、そのときはカゴメカゴメのよう に全員に手をつないで並んでもらい、その中の一人を並びに垂直に押す、そして引くという行為を繰り返す方法しかない。手をつないでることで波源の人に引かれ隣の人も、隣の隣の人も少しづつ遅れて同じ動きをし出す。結局横波は、集団が何らかの力で結合した媒体(固体)でないと生まれない波である。媒体が頑丈で連結しているからこそ伝わる波である。
 なお、この山から山までなど、波の一回の繰り返しの距離を「 波長 」といい、記号 λ(ラムダ)で表す。図の1番上では左から3番目と11番目(色が濃い人)が最も高いのだが、この間、8人分の間隔が波長にあたる。また最も背伸びした人から4人目の人は最も縮こまっており、これを 谷 と呼ぶ。そして、山から谷までの高さの差、その半分を「 振幅 」と呼び一般にはAと表す。なお、モデル的な波(サイン波、コサイン波等)では山の形と谷の形は逆転させても同形であるから、山と谷の中央にあるライン(振動してない線)から山の最高峰まで、あるいは谷の最深部までを振幅Aと定めている。

 図2 ウェィブ
さらに、この図は縦方向にアニメのセル状になっている。山が一人ずつ隣へ移る時間毎に、新たな写真を撮り、それを8回繰り返して縦に並べてある。すると縦方向の図の並びは時間tの流れを表すから、この図は簡単な距離ー時間グラフになっている。そして高い山(色が濃い人)のつながりは山の世界線であり、それを結べば傾いた直線になるから、その運動が等速直線運動であるということが一目で解る。もちろん山に限らず波を構成する全ての点の位相が等速直線運動で並進している。
 次に、図2の一番下よりさらにもう一間隔の時間を経って撮った写真は、一番上の写真と同じになることが推測できる。波はこの8回分の時間間隔で、波長1つ分進んで同じ形になるのである。そしてこの時間間隔は、同じ運動鵜を繰り返すその一回分の期間と言う意味で「 周期 」と呼び、タイムの大文字 T で表すことにしている。

 そこで次に「 波の速度 」V を考える。定義より 速度V=進んだ距離S/要した時間t となるが、1つの繰り返しの長さ、すなわち1波長λを進むのに要する時間が1周期Tであるから、S=λ のとき t=T である。従って
      V=λ/T (V=S/t) あるいは λ=VT   (S=Vt)
の関係が成り立つ。あるいは図2では写真の時間間隔はT/8時間で、一人一人移り変わる距離はλ/8となるから

 V=(λ/8)/(T/8)=λ/T と考えてもいい。


 ところで波が単位時間に同じ波形を何回繰り返すかを「 振動数 」と呼び f または ν(ニュ-) で表す。一般の波はf、光の場合はνと使い分けているようであるが、ここではfを用いる。さて振動数という一秒間(単位時間)の波の繰り返しの回数は、一回の繰り返しにT秒かかるから、振動数fは1秒を周期T秒で割ればいい。あるいは1回の繰り返し時間Tに、1秒間の繰り返しの回数fをかけると1秒となる。 
        f=1/T   あるいは   fT=1 
 なお先ほどの速度の式において周期Tを振動数fで置き換えると 
        V=λf
という関係も成り立つ。一回の振動で進む距離がλ、そして1秒間にf回振動するから1秒間に進む距離Vはλのf倍ということである。
 これらの関係を図3の正式な波の時空図で確かめていただきたい。

 この図は横軸に距離S、縦軸に時間t、奥行きに波の変位(振幅)を取っている。そして一般に書かれる波はこの空間断面であり、例えばそれは図の一番上の濃い線で描かれた波と言える。またその時空間的描写に見られる斜影の構図は、これが等速直線運動であることを表す。斜影の傾きが小さいほど波形の移動速度(「 波の速度 」)が速いと言える。この波の速度は見かけ上の山が進む速さであり「 位相速度 」とも言われる。
 なお図4と図5に進行波と定常波の違いを示している。進行波とは山や谷などの特徴的な部分が見かけ上、進行するようにみえる波でである。見かけ上とは昔の床屋さんで見られたあの赤青白の螺旋のシンボル看板を考えれば解りやすい。シンボルのドラム回転部が回転すると、赤青白の螺旋の波はあたかも上方向へ昇っていくように錯覚を起こす。人の脳がその連続を進行波と錯覚するのだろう。しかし現実にはただ単にドラムが水平に回転しているだけで上下には何も移動していない。
 ところで、本物の進行波の場合は次第にその振動状態、運動状態が波源から広がって伝わっていくのでその意味では(波が伝わり切るまでは)確かに進行波ではある。
 では定常波とは何かというと、それは例えばギターの弦の振動に代表される。ギターの弦は両端は固定されているので振動できない。従ってその中央をはじくと中央のみが振るえて大きく膨らんでいるのが見える。

  ※ ギターの端を「 固定端 」といい、振動できないように固定されている。逆に一本の糸でつるした針金 等の両端は「 自由端 」という。この場合は固定端とは異なり、逆に自由に振動ができる。自由端は縦波の音の場合は管楽器の両端の口にあたる。

 しかしこれは単に残像が残ってるだけである。本当はこの位置で弦が山谷を単振動のように繰り返している。そしてその山も谷も右へも左へも移動せず、その場で入れ替わり上下運動をしているだけである。これが定常波であり、最も振れているところを「 腹 」と言う。ところでもしギターの弦の中央を少し押さえながらつま弾けばこの腹は2つでき、1/3の点を抑えれば3っつできる。それぞれに1つのときを基本振動、2つを2倍振動、3っつを3倍振動・・と呼び、その全体に「 固有振動 」という名前が付いている。これは波の振動する範囲が限られてるから起きる現象で、固定端同士ではその範囲を整数で分割した振動しか生まれない。当然振動数も整数倍で変化し、2倍4倍8倍と増える毎に音は1オクターブづつ高くなる。

 定常波については、図4の中央に載せているので縦軸の時間を追って確認してほしい。全く振れない部分(固定端を含む)を「 節 」と呼び、山谷を最も大きく繰り返す部分を「 腹 」と呼ぶ。なお、同じ図4の左と右には右進行波と左進行波の1/8周期毎の動きを載せている。そして波長、振動数、波の速さ全て同じ条件でこれら逆向きの波が重なると、右へも左へも進行しない、定常波ができる。ところで、この場合は外枠は限られていないから固有振動的振る舞いはしない。進行波の条件次第で自由な波長、自由な振動数の定常波を発生させることが可能である。ところで、この逆向きの進行波は一方の進行波が反射したときにもできるから、丸い水槽の中に水を入れ、その中央を振動させると、最初は進んで広がる様相を呈していた進行波も壁に反射して戻ってきていつしか定常波に変わっていると言うことが起こる。ギーターの弦も同じ理由であり右向きの波と左向きの波(どちらかが入射波、他方が反射波)が重ね合わさった結果である。

 さて、最後に、「 縦波 」のことについて考える。縦波とは波の進行方向と媒質(振動物質)の振動方向が同じ波である。例えば弦巻バネをその方向に一回ポンと押すとバネの密部が直線上をスーっと移動するかのごとく動いていく(「 パルス波 」)のが解る。これも実際にバネを構成する金属がそこまでの大きな移動をしたのではなく、それぞれの金属部の単振動によって、金属と金属の間隔の疎密状態が次々にかわり、その変化の状態が移動していったのである。これは将棋倒しに似てる。ただ将棋倒しでは振動一回のパルス波にしかならない。これに対し波を繰り返し起こす「 連続波 」では、将棋は完全には倒れず、前に当たったら反動で後ろへ戻り、また後ろに当たって反動で前に進むというようにいったりきたりを繰り返しながら、その変化が伝わっていく状態と考えられる。そして音はその代表例であるから、その動きを進行波と定常波に分けて図5に載せる。縦波の音では空気に疎密ができるがその状態から別名「 疎密波 」とも呼ばれている。なお、進行方向と振動方向が同じものはその真の動きが捉えにくいので一般には両者が垂直な横波に置き換えてこれを表すことが多い。(図5、縦波の下に記載)。

2.音の伝わり方=音円錐=とドップラー効果

 空気中を伝わる音について考える。例えば音源が媒体(空気等)に対して静止しているときは、音はあたかも音源から多くの物体(例えば弾丸)が一度に放射状に発射されたかのごとく振る舞う。従ってこれを媒体に対し運動する観測者から見ても、その全てにガリレイ相対性が成り立つ。これを”図6上図観測者移動”に載せる。ところが、音源が移動するときはそうはいかない。一旦出た音の振動は、媒体の振動へと置き換わるので音速は媒体に対し一定となる。これがもし弾丸だったとして、走ってる車から機関銃を四方へ乱射すれば、弾丸にはガリレイ相対性に従って車の速度が加算されるが、音はそうはならないのである。

 なお図6では縦軸は時間軸に音速Vを掛けて縦軸を長さの単位にしている。すなわち音速の世界での時空間であり、これはXーY-Vtグラフである。そこで音の速さをVとすると、X軸方向では X=Vt または X=-Vt であるから、 X と Vt は1:1で比例する。従ってその傾きは45°となる。 またY方向なら Y=Vt またはY=-Vt、一般の方向なら √X+Y=±Vt である。なお音は3次元で広がっているから、さらに一般的には   √X+Y+Z=±Vt ということになる。あるいはこれらを辺々2乗して  X+Y+Z=V という表記をしても構わない。これは音の世界線を表す式である。ただ X+Y+Z=V の式では4っつの座標が必要になるから一般には余計な座標を1つ抜いて X+Y=V  (空間二軸と時間一軸)として表す。

 余計な座標とは次のようなことである。もしこの音源や観測者が移動し、その運動方向がX方向だとすると、それに対する横方向のY軸方向とZ軸方向は運動に関しては全く対等である。したがって横方向はY軸、もしくはZ軸のどちらかに代表させてかまわない。もし第三者がX軸とある角度をなして運動していたとしていてもそれが等速直線運動ならば直線であるから伝達の全てはX軸とその直線を含む1枚の平面に乗る。したがってその平面上でX軸に垂直な方向をY軸とすれば、横方向の運動についても問題なく取り扱えるから、Z軸という余計な座標は思考上特に取り上げる必要はない。  

 さて音の進行方向は音を伝える平面の媒体空間上で360度全て対等であるから、それを時空間上で繋げると、光円錐ならぬ音円錐が現れる。

 そこでこの図6の音円錐を周期毎に複数重ねる式からドップラー効果を導く方法を紹介する。これは音の進行波を横波と考えたときの山なら山の次から次への発信を表している。この音円錐群は図3で山の世界線を振幅を取り去って並べ、それを時間軸を軸としてX-Y空間面上で360°回転させて作られる。さて観測者が動くとき音源は空気に対して移動しないから考え方は弾丸を見る観測者と同じである。ところでまず媒体に静止している慣性系S系で考えれば、波の進行方向とX軸方向との角度をθ、波の広がりの計り出しからの時間をt、波の周期をT、nを整数として一般式は
  X=V(t-nT)cosθ、Y=V(t-nT)sinθ (n=1,2,3・・)
となる。これはX-Y面上で原点を中心とする同心円が時間と共に全ての方向に均等に広がっていくことを表している。まとめると X+Y=V(t-nT) 

 次にこれをX軸上任意の地点から同じくX軸正方向に速度uで等速直線運動する観測者S’系で考えると、S系においては観測者は時間と共にutで移動しているから、ガリレイ変換により
   X’=V(t-nT)cosθ-ut、Y’=V(t-nT)sinθ
まとめると 
   X’+Y’=V(t-nT)-2Vu(t-nT)cosθ+u
 この式は方向によって変化する。そして特に音の方向と観測者の方向が一致する θ=0(観測者の最初の位置がX軸正なら音源から離れる)では
  cosθ=1 sinθ=0 より   X’= V(t-nT)-ut、Y’=0
また音と観測者が逆方向になる θ=180(観測者の最初の位置がX軸負なら音源とすれ違う、)では
    cosθ=-1 sinθ=0 より  X’=-V(t-nT)-ut、Y’=0
 そこでS’系の観測者はこれらの音をどう捉えるかを考えると、考えやすいように観測者をt=0時の音の発信源と同じ位置に置いたとき、観測者の世界線はS’系では X’=0、Y’=0 であり、時間軸そのものとなる。従って時間軸上での時間と周期Tとの関係は、例えばn=0の原点にいる観測者が、n=1の音が通り過ぎる時間tを計ることで求められる(t=T 、添え字は見かけの頭文字Mを表す)。
   音源から離れる場合:0= V(t-1・T)-ut より (V-u)T=VT
                     V
                             T =────T 
                                   V-u
 従って、周期の逆数である振動数は見掛けの振動数をf、音源振動
                                                             V-u
                       数をfとして       f =──── f  ( <f )
                                                               V
   音源に近づく場合 :0=-V(t-1・T)-ut  より (V+u)T=VT
                     V
                             T =────T 
                                     V+u
                                                             V+u
                      振動数は         f =──── f  ( >f )
                                                               V
 これは、観測者が実感する音の振動数です。観測者は音源とすれ違うときはやや高い音に聞こえ、遠ざかるときはやや低い音に聞こえることになるが、これを発見者にちなんで「 ドップラー効果 」と呼ぶ。

 ところで音の場合はもうひとつ、音源が移動する場合の特殊性を示しておかなければならない。この場合のドップラー効果は救急車やパトカーのサイレンの音、踏切に立ったときの汽車の近づくとき、遠ざかるときの音などに顕著に現れてくる。そしてその特殊性とは、前にも少し述べたが音源が移動する場合ガリレイ相対性は成り立たないと言うことでである。音の場合、音源が静止していても運動していても空気という媒体に静止している観測者から見て音速は変化しない。音速は常に空気に対して一定とである。

 では音源が運動している場合は、静止している場合と何が違うのか。それは音の発信点である。最初の山が原点から発信されたとすれば、次の山はuTだけ進んだ位置から発信する。以下n番目の山はnuTの位置からの発信ということになるだろう。その様子を図6の音源移動の媒体系(S系、左下)に示している。図を見ると左上の音源静止の場合に比べ、左下では同心円が進行方向側へ集まって進行方向側の波長(円同士の間隔)が縮まり、後退方向側の波長が開いているのが解る。観測者が動く場合は音速の相対速度が変化して見かけの振動数が変わったのだが、音源が動く場合は音速は変化せず、代わりに波長そのものが変化して同じくドップラー効果が起きる。これを式で示すと
  S 系:X =Vcosθ(t-nT)+nuT、  Y =Vsinθ(t-nT)
(S’系:X’=Vcosθ(t-nT)+nuT-ut、Y’=Vsinθ(t-nT))
             =(Vcosθ-u)(t-nT)
 
※ S’系に( )をつけたのは、観測者は今回S系にいるからS’系を扱う必要はないと言う意味である。            ただし相対性を考える上では必要なことなので図にも式としてもその構造を示している。なお観測者がS’系にいても同心円が偏った構造であることには変わりはない。なぜなら、これは音が主役、音源が脇役で引き起こされたイベントであり、観測者の運動には全く関係しないから。ただし、その音円錐の傾きは変わっている。それは観測者によって変わりうる、相対速度の変化である。(同様に観測者移動の場合もS’系では  円錐の傾きが方向によって変化している。) 

さてそこでS系において音源が離れるとき、観測者はθ=180方向へ進む音波を受け取るから
          X =-V(t-nT)+nuT、Y =0
また音源が近づくとき、観測者は過去θ=0方向へ進む音波を受け取るから
       X =V(t-nT)+nuT、 Y =0
 そこでS系の観測者はこれらの音をどう捉えるかというと、考えやすいように観測者をt=0時の音の発信源と同じ位置に置いたとき、観測者の世界線はS系では X=0、Y=0 である。従って時間軸上での時間と周期との関係は n=0~1で考えると上式で n=1とし t=T(観測者が感じる周期)として
   音源が離れる場合:0=-V(T-1・T)+1・uT より VT=(V+u)T
                      V+u
                       したがって T=────T 
                                      V
 周期の逆数である振動数は見掛けの振動数fM、音源振動数f
                                                              V
                       として          f =───── f  ( <f )
                                                             V+u
   音源に近づく場合:0=V(T-1・T)+1・uT より VT =(V-u)T
                      V-u
                       したがって T=──── T 
                                      V
                                                                V
                       となり、振動数は     f  =──── f  ( >f )
                                                               V-u
 音のドップラー効果は、観測者が移動する場合と、音源が移動する場合で全く形態が異なることが解る。

 なお一般方向の場合にはあえて触れない。それは音波と観測者が直線的に近づくか、あるいは遠ざかるか以外では、音波と観測者は斜交し計測する間に方向が大きくずれてしまうという事態が起きるから。この事態の回避には音源と観測者を十分に引き離し、音の波が平行線として捉えられるほど遠い距離まで持っていくしか解決法はない。ただそうすると音はほとんど聞こえなくなるから音については一般方向のドップラー効果を取り扱うことは問題外である。(光の場合は、光行差と合わせて取り扱うが。)

4.ドップラー効果2種、初等教育教科書の証明法と時空間図による証明法

A)初等教育の教科書による証明法
1)観測者が動くとき
 図7で中央の音源は移動しないから波は同心円に広がる。従って波長λは変化しない。これはS系(媒体静止系)でもS’系(運動観測者の系)でも同じである。
 a)観測者が近づくとき
   図の音源より左の薄い長方形を観測者とする。左の濃い方は媒体に静止している観測者で、右の薄い方は音源に速度uで近づく観測者である。    

   S系(媒 体静止系)における説明:静止観測者を通過して1秒経った音は観測者    を通過して左方向にVだけ進みます。その間観測者を抜けた波の数(振動数f)    は f=V/λ です。しかし音源に近づく観測者はその1秒の間に右にuだけ    進むので、1秒間に音の波をV+uの距離で受け取ります。従って運動する観測    者の感じる見かけの振動数は
          fM=(V+u)/λ=((V+u)/V)f

    S’系(運動観測者の系)における説明:観測者が感じる音の相対速度はV+u
    従って     fM=(V+u)/λ=((V+u)/V)f

  b)観測者が遠ざかるとき  音源より右の図で証明可能 ( 省略 )

2)音源が動くとき
 図12で中央の音源は右へ移動しますから波は同心円が右に偏った状態で広がります。しかし1秒間の音源からの波の発信数(振動数f)は変化しません。これはS系(媒体静止系)でもS’系(運動観測者の系)でも同じです。
 a)音源が近づくとき
   図右の薄い長方形を静止観測者とす  れば音源はこの観測者に速度uで近づい  図12 ドップラー効果 観測者移動
    ています。
   S 系(媒体静止系)における説明:1秒経った音は最初の音源から図の同心円の    最大まで広がり距離Vだけ進みます(速度V)。その間音源は中央からuだけ右    に達し、この観測者から音源までの間にf個の振動が入ることになります。従っ    てその分波長λMが縮みます。縮小率は元々Vのなかにf個あったものがV-u    の中にf個に変わりますから λM =((V-u)/V)λ です。
     ところで音速Vも振動数fも観測者にとっては変わりませんから
       fM=V/λM=V/(((V-u)/V)λ)=(V/(V-u))f

    S’系(音源が静止する系)における説明:相対速度が関わり複雑になる(省略)。

  b)観測者が遠ざかるとき  音源より左の図で証明可能 ( 省略 )

B)時空間図による証明法  

 時空図で求める方法は、すでに計算式で示しているのですが、音源と観測者の出所が同じと言うことで何となくわかりにくかったのではないのでしょうか。そこで図13に音源と観測者を切り離した図を示しています。そして音の円錐群を観測者の世界線が過ぎる所にある三角形を利用すると、音源の周期Tと観測者が感じる周期TMとの関係を幾何学的にもっと解りやすく導くことができるのです。
 まず図13で”観測者近づく”の世界線を見てください。するとその音の最初の円錐と次の円錐の所に三角形が描かれています。そしてその縦線は媒体に静止する観測者の世界線の一部ですから縦線の長さは音源の周期Tに音速Vを掛けたものを表します(その左に拡大図を載せています)。また速度uで近づく観測者の世界線と二つの音円錐断面の世界線との交点同士を結ぶ斜めの辺の時間成分は、観測者が感じる見かけの周期TMに音速Vを掛けたものを表します。ところでここにある三角形は2つに分かれ一方は直角二等辺三角形、もう一方は、縦横の比がV:uの直角三角形になっています。なぜなら音速は45°になるようにX=Vtとして取ってありますから(この時空間図の縦軸がVtであることを思い出して下さい)。音の世界線を斜辺とする三角形は当然直角二等辺三角形になり
         図13 時空図によるドップラー効果の解析
ますし、下の三角形は縦に時間Vtだけ経ったとき(音が距離Vtだけ進んだとき)観測者が同じ時間で横に距離utだけ動きますから比率はV:uになります。すると
 観測者が近づくとき: T:TM =V+u:V より TM=(V/(V+u))T
                            V+u
       よって fM=――――f
                              V
となります。以下やり方は同じで、各世界線同士、各交点を結ぶ三角形を考えていけば、三角形の比率は変わりませんから、各々の場合について導くことができます。
 結果は図の中に記入していますのでご覧下さい。
 なおこの表記を特殊相対性理論に似せて表すともっと見やすくなります。それはuという速度を対音速比の速度β(=u/V)として表すことです。当然音速は1(=V/V)ですから、それぞれの式は
  観測者が近づくとき:fM=(1+β)f   観測者が遠のくとき:fM=(1-β)f
                              f                                 f
  音源が近づくとき :fM=―――― 音源が遠のくとき :fM=――――
                            1-β                             1+β
特殊相対性理論の章で取り扱う光のドップラー効果も、音の場合のこの式と対応させて考えると解りやすくなるでしょう。

 

 

波というと、海の波、特に岸辺にうち寄せる波をすぐに思い出すが、この波は少々複雑でせある。そこでまず、サッカーでサポーターが作るウェーブを取り上げて、簡単な説明をしてみる。 図1はこれを模式的に示しているが、波は1個の物質で成されるのではなく、物質が数多く集まった物質群に周期運動として表れる(不規則運動として現われるのが熱伝導)。ウェーブも一人では作れないので多数の観客が動員されている。並んだ人の群れが波を伝えているのである。
 さて図1では多くの人がその場で立ち上がったり座ったりを繰り返す。そして、それを時間をずらして行うことで、波の最も高い部分= 山 =が時間と共にどちらかへ移動していくように見える。図2の場合、時間は下へ進行するとして、山(濃い人)は右へ移動しているから右進行波となっている。ただしこれはその波形が移動しているだけで、実際に人は誰も横に移動していない。見かけ上山が移動したように見えるだけである。もちろん唯一移動したものもある。それは個々の人たちの運動状態である。波が始まったところ(「 波源 」)から少しずつ時間をずらして立ったり座ったりの運動(振動)をする人が時間と共に周りに増えていく。そして直線上を伝わる場合は、この振動の先端は等速直線運動となる。また平面空間なら等速に同心円で広がり、空間ならば球状で広がる。
 ところでウェーブは個々人の振動方向と波の進行方向が垂直に交わっているので「 横波 」と言う。横波は一般に物体同士、粒子同士の結合が強い固体中しか通らない。ところがこのウェーブ、人と人とは見た目では全く結びついていない。なのに何故横波になるのか。その理由は個々人それぞれが共有する強い意志の力です。全員が時間を順番に均等に遅らせて立ち上がるという強い意志統一をしているからこそ、このようなきれいな横波ができる。従ってもし意志統一されてない人によって無理にでも横波を作ろうとするならば、そのときはカゴメカゴメのよう       に全員に手をつないで並んでもらい、その中の一人を並びに垂直に押す、そして引くという行為を繰り返す方法しかない。手をつないでることで波源の人に引かれ隣の人も、隣の隣の人も少しづつ遅れて同じ動きをし出す。結局横波は、集団が何らかの力で結合した媒体(固体)でないと生まれない波、媒体が頑丈で連結しているからこそ伝わる波である。
 なお、この山から山までなど、波の一回の繰り返しの距離を「 波長 」といい、記号 λ(ラムダ)で表す。図の1番上では左から3番目と11番目(色が濃い人)が最も高いが、この間、8人分の間隔が波長にあたる。また最も背伸びした人から4人目は最も縮こまっており、これを= 谷 =と呼ぶ。そして、山から谷までの高さの差、その半分を「 振幅 」と呼び、一般にはAで表す。なお、モデル的な波(サイン波、コサイン波等)では山の形と谷の形は逆転させても同形であるから、山と谷の中央にあるライン(ぶれないときの位置)から山の最高峰まで、あるいは谷の最深部までを振幅Aと定めている。